サッポロ再参入の中国ビール市場の動向
2018年9月20日、サッポロビール株式会社(以下、サッポロ)は中国市場への輸出再開と本格的な市場参入を行うことを発表しました。既に海外市場で販売している「サッポロプレミアムビール」を、世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ社に販売委託し、中国でのブランド確立を目指すようです。
「再参入」とあるように、サッポロは以前輸出のみならず、現地企業と合弁でブランドを立ち上げ、生産・販売も行っていましたが、2009年末に撤退をしています。当記事では、今や無視できない存在となった中国のビール市場について、日本メーカーの進出の経緯を踏まえながら解説していきたいと思います。
中国国内のビール事情
世界で最も人口が多い中国。白酒や紹興酒のイメージが強いですが、実は一番造られている・飲まれているのはビールです。世界的に見てもビール大国であり、キリンビールの調査によると2016年の総消費量は4,177万klと、2位のアメリカ(2,424万kl)に大差をつけています。
メーカー別に見ていくと、販売量ベースでのトップシェアは華潤創業。日本円にして100円を切る安さで飲めるラガービール、「雪花」(シェエホァ)を販売しています。雪花はブランドとしても世界トップシェアですが、中国国内での販売にほぼ限定されています。
2位は、青島ビール。日本の中華料理店等でもよく見かけますね。19世紀後半にドイツの租借地となった青島に、ビール生産技術が移転されたのが始まりです。青島ビールは、日本のメジャーなビールと比べても苦味が少なく爽やかな味わいです。きめ細やかさはないかもしれませんが、口当たりが軽く、飲みやすさとしてはトップクラスではないでしょうか。
3位は、バドワイザーで有名なアンハイザー・ブッシュ・インベブ。中国では元々、ライトで価格も安い国内メーカーの雪花・青島・燕京が圧倒的シェアを誇っていましたが、経済成長と共に海外の高級ビールが好まれるようになっていきました。サッポロがプレミアムビールを展開する背景には、こうした中国人の嗜好の変化もあるのかもしれません。
中国市場における日本メーカーの動向
<サントリー>
サントリーは1984年に江蘇州に進出し、日本のビールメーカーの先頭を切って中国事業を始めました。1996年に、上海で新ブランド「三得利」の販売を開始。1999年には上海のビール市場でトップシェアを獲得しました。
しかし、華潤創業の雪花等の安価なビールとの価格競争に巻き込まれ収益が悪化。2012年に青島ビールとの合弁会社を設立し、国内主力ブランドとのシナジーを図りますが、わずか2年で合弁契約を解消しています。三得利は、青島ビールとライセンス契約を結び販売を継続していますが、中国事業からは実質撤退しています。
<キリン>
1996年に中国に進出したキリンビールは、サントリーと同じく現地メーカーとの価格競争に巻き込まれ販売量に伸び悩んでいました。2011年に、最大手である華潤創業との合弁契約に至りましたが、華潤は当時世界2位の英SABミラーと資本提携していたため、キリンビールが入り込む余地はありませんでした。
しかし、高級ビール市場が伸びていく中で、麦とホップのみを原料とする「一番搾り」がヒットし、上海を中心に浸透し始めています。
<アサヒ>
アサヒビールは1994年に伊藤忠商事と共同で現地メーカーの株式を取得し、中国市場に進出しました。2009年にはアンハイザー・ブッシュ・インベブ社が保有する青島ビールの株式20%弱を購入し、主力ブランドの販売網を糧にアサヒブランドの拡大を目指します。
2017年に、欧州事業を新たな成長分野と位置づけ、青島ビールの全株式を売却しましたが、一番搾りと同じくスーパードライは高級ビールとして売れ行きは好調。また、英SABミラーから買収した欧州のビールの販売を始める等、中国市場にはまだ期待感を寄せています。